潰された蝶を集めてⅠ 苺味のプルースト効果

先日のエアブーでネップリ公開したものです。ポーの一族的な感じで、時代を渡り歩いては通りすがりの人間ちゃんに強烈な印象残すだけ残して去っていく刀剣男士が見たいという一心で書きました。内容から察せられるように審神者じゃない人…

拝啓 “ここ”になった“何処か”から

超閃華2024のサンプルとして、第一章の抜き出しです。  2019年2月初出の同人誌『例の部屋に閉じ込められまして』の続編です。前作は再録本『本丸四時』、またはくるっぷのサンプルをご参照ください。 ・現代社会(2020年…

本丸のズボラ飯

・2015年の8月発行の本の再録であるということを前提に読み進めてください   大倶利伽羅のカレーうどん 「いやぁ、すまんな伽羅坊」 本丸の台所を預かる昔なじみは、本日第一部隊で出陣中だ。その他の部隊も出陣や遠征で出払っ…

本丸は今日も素麺日和

・2015年の8月発行の本の再録であるということを前提に読み進めてください  寸胴鍋の前には熱気が満ちている。火を止めて菜箸で鍋底をひっかき、燭台切光忠はまくり上げていたジャージの袖を下ろした。「長谷部君、行くよ」「ああ…

朱の窓辺にて

 私が聖地にいたころ? ずいぶんと昔のことをご存じですのね。ええ、ええ。このようなお婆さんの昔話ではありますが、あなたのお役に立てるのならばお話しいたしましょう。 あれは、私が十八の春でした。同じく聖地への赴任が決まった…

あえたひに

 駅で出迎えた元同僚の外見は、当然だが全く変わっていなかった。その反面、自分の顔――腹立たしいことに目元や口元辺りを見たリュミエールは、驚いたような表情を浮かべている。 主星の中でも、中心からここは遠い。自然が多く、広大…

居酒屋 あるじ

「さっぶ! いや、さっ、ぶ!」 笹貫がこの身を得たのは、夏の盛りだった。知識でしか知らなかった冬を体感するのは、これが初めてのこと。 呼吸をするたびに、空気を通す鼻が冷えていく。身をこごめ、せめて風除けにと前を行く広い背…

「わたしを忘れないで」

 拝啓、坂本龍馬様。おんしは今、どこでどうしてござるんじゃろうか。陸奥守吉行は本丸の庭をぼおっと眺め、物思いに耽っていた。 あれから四百年ほどの時が過ぎて、今自分は審神者と呼ばれる人間、それも女性を主と呼んでいる。彼女の…